日本映画学会会報第16号(2008年12月号)
●学会誌『映画研究』第3号の編集を終えて
杉野健太郎(信州大学人文学部准教授)
日本映画学会学会誌『映画研究』編集委員会の委員長を務めさせていただいている杉野と申します。すでにお伝え申し上げております通り、レフェリー制学術誌である『映画研究』には審査の公平性ならびに映画研究という学問の発展・成熟に寄与できる執筆者の涵養という二つのシンプルな理念あるいは方針があります。審査の公平性を保証するために、投稿規程に記されております通り、匿名審査を行っております。編集委員は論文の執筆者名に関して一切関知しておらず、学会誌が実際に刊行されてはじめて知ることとあいなります。また、その公平性を徹底するために、編集委員の申告によって執筆者や主指導教員など被審査論文と深い関わりがある者がその審査を行なうことがないようにいたしております。また第二の理念、映画研究の発展・成熟に寄与できる執筆者の涵養の一助として、編集委員会は審査結果に審査員のコメントを付しております。
次に第3号の具体的審査に関してです。本号には5編の投稿があり、3編が掲載とあいなりました。創刊号および第2号と同じく、審査員は一定の期間を経てそれぞれの査読結果を持ち寄り、最後に一定の合議期間を置いて討議し採否に関しては必ず投票の上で、全投稿論文の審査結果を慎重に作成いたしております。査読結果において採否が割れた論文に関しては合議期間においてさらに慎重に討議し投票の上採否を決定いたしております。今回は最終的に3編が採用となりましたが、論文の完成度に関して編集委員会からいささかの条件が付帯された論文がありました。審査終了後から完成ファイル提出までには数週間程度しかありません。したがって、今後とも投稿規程および書式規程の遵守は当然のこととして、あらゆる点において完成度の高い論文を投稿されることをお願いいたします。
今回の審査は以上のようなものでしたが、今回も含めて過去3号に投稿された論文に関するコメントの一部を集約して、投稿者の参考までに留意点を申し上げればこのようになります。
- 研究論文または学術論文とはある論題に関して先行研究をふまえた上で自分独自の考えを論証するものと言えるでしょう。したがって論文の趣旨・目的を明確にし、先行研究(先行研究がない、あるいは少ない分野もあるでしょう)を参照しながらていねいに論旨を展開し、結論もしっかり述べてください。
- 研究論文は概説とは異なります。研究論文の場合は概説的な内容にならないように焦点を絞る必要があります。
- 独り善がりな説明や論理展開にならないように読者の理解を助ける工夫に配慮する必要があります。
- 映画評や批評ではなく研究論文ですので自己韜晦的あるいは過度にレトリカルな文章ではなく明晰な文章で表現してください。
- 用語で何を意味するか判然としない場合があります。したがって用語はしっかり定義した上で、あるいは何を意味するか明確に分かるように書いた上で、論文内で首尾一貫して同じ意味で用いてください。
先回も申し上げましたが、学会誌『映画研究』は本学会および日本における映画研究とともに発展していきたいと願っております。日本においても先行研究の蓄積ができ、またそれに挑戦する研究者が次々に登場するという輝かしい未来を祈念しながら、数多くの投稿を心よりお待ち申し上げております。
●2008年度日本映画学会賞の選考結果について
- 受賞者なし
●2008年度日本映画学会賞の選考過程について
杉野健太郎(信州大学人文学部准教授)
日本映画学会会報第12号(2008年1月号)上にて、「日本映画学会は2008年度より日本映画学会賞を制定します。日本映画学会誌『映画研究』第3号以降、同学会誌への投稿論文を日本映画学会賞の審査対象にし、傑出した学問的成果を示した論文に対して同賞を授与します。」とのお知らせがありました通り、第3号以降の投稿論文は日本映画学会賞の対象となりました。日本映画学会賞の選考を常任理事会から委嘱された編集委員会を代表して、2008年度日本映画学会賞の選考の経過をお知らせ申し上げます。
編集委員会では事前に二つのプロセスを通して選考を行なうことにいたしておりました。第一のプロセスは最優秀論文の決定です。第二のプロセスはその最優秀論文が日本映画学会賞にふさわしいかどうかの決定です。両プロセスとも審議を経た上での投票が具体的手続き内容です。もちろん日本映画学会学会誌『映画研究』と同様に匿名審査ですので、各論文の執筆者は伏せられたまま論文タイトルによって審査されます。
初回となった今回は、予定した通りのプロセスに従いまず最優秀論文を決定しましたが、最優秀論文は編集委員会の満場一致で「フランス初期映画期の映画雑誌に見る映画伴奏音楽の変質 ― ルイ・ヤンセンの「音楽・映画同期化」システムをめぐって」に決定しました。第二のプロセス、その最優秀論文が日本映画学会賞にふさわしいかどうかの決定に関しては、論文そのものの学問的成果や過去の学会誌掲載の論文との比較などを視野に入れながらの審議後に投票しましたが、あと少しのところで同論文は受賞には至りませんでした。過去2号の掲載論文の蓄積はあっても過去の受賞作はなく比較対照はなかなか難しい面もありました。僅かなところで受賞には至らなかったものの、同論文は独自の研究領域を切り拓く並々ならぬ力量と手堅い論証力が高く評価されたことを申し添えておきます。
もとより多様な言語および多岐にわたる本学会の研究領域の論文成果を判断することには困難がつきまとい、期間等にも限りがあるなど様々な制約がございますが、編集委員会では全力を尽くして、また何より公平かつ公正に選考をいたしていく所存です。したがって学会誌の掲載のみならず本賞を目指して投稿されることを期待いたしております。
●新入会員紹介
- 大勝裕史(早稲田大学大学院文学研究科博士課程)ヴェトナム戦争の表象
- 大坪利彦(宮崎産業経営大学法学部准教授)メディア研究
- 狩野剛史(専修大学文学部)ヌーヴェル・ヴァーグ研究/フランソワ・トリュフォー研究
- 佐藤順平(京都大学人間・環境学研究科修士課程)フランス映画論
- アナスタシア・フィオードロワ(同志社大学法学部)日露の映画における文化交流